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2006.09.01

「太陽 The Sun 天皇ヒロヒト-彼は悲劇に傷ついた一人の人間」

ロシア人監督アレクサンドル・ソクーロフが撮った昭和天皇。 またまたいろいろ考えに沈んでしまう作品でした。

映画内の出来事がすべて事実なわけはないし、「ありえない」事柄だらけだろうという前提のもと、ネタバレ大全開の感想。

***ネタバレ大あり***


先月遂に三十路を迎えたばかりのalexには、「天皇」は「人間」であり、「神」というイメージは全くなし。

 「昭和天皇」で思い浮かぶことは、太平洋戦争で「現人神」から「人間」になった天皇。記憶に残っているTVで見た昭和天皇の姿はかなり疲れたイメージが強かったこと。事実上、太平洋戦争は2つの原爆による終戦だったわけで、相当の想いを抱きつつ、「現人神」→「人間天皇」になった方。 

太平洋戦争は詳しく調べていないものの、軍部の独走の色が強かったように思っているし、天皇にそれを止める力があったとは思っていないので、戦争が天皇の責任ともあまり思ってないかも。

というごたくは横において、感想。(あくまでも、「映画」としての感想。実在した天皇に対してではないのと、映画と現実を混同してるわけでもないので、読まれる側もその点にだけはご留意を)

「私はこの運命を拒否したのだよ」

終戦&人間宣言後(?)、自室でどこか嬉しそうにそう声に出して呟いていた昭和天皇。足をぶらぶらさせてみたりして、子供みたいにはしゃいでいるようにも見えるその姿。

「神」として扱われ、「人間」として扱ってはもらえなかった終戦までの日々。食事もすれば眠りもし、着替えもする。けれど、「人間」でも「日本人」でもない存在。

「最後の日本人が私になるということはないだろうね」

との問いに、「天皇は人間ではないのだから『最後の日本人』にはなりえない」と側近は返す。最後まで守れられ続けて「最後の日本人」になるのではなく、「そもそも人間ではないのだから、”最後の一人”にはなりえない」という意味だと気づいて、見ているこちらの心もふさぐ。

「私の身体も君たちと同じなのだがね」

あくまでも「神」として扱いたがる側近に対して漏らす言葉。答えられない/答えたくない侍従長。

側近達と何も変わらないけれど、側近達は彼が自分達と同じであることを受け入れない。

否、侍従長は苦しむ天皇をもしかしたら理解している部分があったのかもしれない。その悲しさを、端々で受け取っていたのかもしれない。けれど、彼もまた、天皇に「あなたは私達と変わらない人間です」ということは立場上、またさまざまな意味で出来なかったとも思う。

疎開先から帰ってきた皇后に、「神であることを拒否した」と嬉しそうに報告すると、皇后はしばし絶句。神であることに不都合があったのか?問題があったのか?と思わず問いかける。

悩む姿を間近でみていなからなのか、それとも代々天皇というものは「神」であって当たり前だと思っているからなのか。皇后にとっても天皇の「人間宣言」は晴天の霹靂だったのか・・・・・ いずれにせよ、昭和天皇が人間宣言したことで、今上は戦後「人間」として生きることが許されたことになる。(皇太子時代はやっぱり神?)

米軍側の通訳として出てきたアメリカ兵の話す英語はジャパニーズ・イングリッシュだった。彼は、英語でマッカーサーと話し出した天皇に言う。

「陛下、どうか日本語でお話しください。英語で話すということは、彼らと対等であるということになります」

天皇と話す時は頭を垂れ気味で、天皇への敬意を全身で表していたこの兵士には、天皇はやはり「神」に等しかったのか。「神」であってほしかったのか。日本が敗戦したとは言え、どこまでも米軍とは次元の違う存在であって欲しかったのか。

しかし、その言葉を無視して天皇は英語でマッカーサーと話し続ける。

やたらと目に付くというか、気になった口をもごもごとさせる仕草。記憶に残るTVの昭和天皇もそうだった覚えはあるものの、あれはてっきり老齢のなせるわざだと思っていた。けれど、どうやら違うらしい。

言葉を紡ぐわけではないのに、何か言いたげに動き続けるその唇は、もしかしたら声に出せない言葉を呟き続けていたのかもしれないと思う。

皇族のインタビューを見て、「やけにゆっくり話すなぁ」と子供の頃は思っていた。しゃきしゃきっと話せばいいじゃないかと。
けれど、もしかしたらあの独特の間、文字通り「言葉を選んで」話す話し方は、想いを自由に言葉に乗せることの出来ない立場のなせる業なのかもしれない。

幼少の頃は分からないけれど、成長してメディアに出ることが増えるにつれ、天皇家、特に直系の人々は思ったことをそのまま口に出すことなどできなくなるのだろう。

その言葉の反響の大きさ、国民に与える影響。好き嫌いはもちろんのこと、世界情勢も口には出せないだろうし、側近以外の人々がいる場所では、ただひたすら微笑むのしかないのか。(少し前も皇族の発言が散々メディアに取り上げられていたけれど)

海外ではそれなりの反響を得つつ、日本での上映はきっと無理と言われたこの作品。天皇は不可侵の領域だと、世界ではやはり思われているのか。英国ほど、国民に開かれた立場ではない日本の天皇家。

キャッチコピーに、「彼は、あらゆる屈辱を引き受け、苦々しい治療薬をすべて飲み込むことを選んだのだ-アレクサンドル・ソクーロフ」とある。

確かに、昭和天皇は「現人神」→「人間」というそれまでの日本人の根底(?)をひっくり返すような出来事を受け入れ、焦土の中から立ち上がる日本を見、民間からの皇太子妃を受け入れ、高度経済成長を見守ってきた。太平洋戦争・原爆・降伏・人間となること、を受け入れてきた。

昭和天皇本人が、「人間」となることをどのように感じていたのかは分からない。暴走していく軍、米軍の沖縄上陸、大都市への大空襲、そして原爆。天皇の為にと死んでいく国民。

ただ思うのは、戦争を終わらせ(という表現が正しいかどうかは分からないけれど)、米軍に降伏し、人間となった昭和天皇の背負ったものは、とてつもなく大きなものだっただろうということ。 ある意味、あらゆる屈辱、苦々しい治療薬をすべて飲み込んだ面はあったのではないかということ。良いか悪いかではなく、今の日本があるのは、彼が背負うことに決めたものに負っている部分が少なくともあるのではないかと思う。(映画と現実を混同しているわけではもちろんない)

関西育ちのおかげで皇居には全く縁がなく、未だに半蔵門がどれか知らないalexには、天皇や皇族への強い思い入れなどないのだけれど、意識していなくても、心の中のどこかで天皇家は特別なのかもしれない。

戦争が終わり、疎開していた皇后と子供達との再会を喜ぶ昭和天皇。しかし、その喜びに水を指すシーンで映画は終わる。

「私の人間宣言の録音技師はどうした?」
「自決しました」
「・・・・・当然止めたんだろうね」
「・・・・・・・・・いいえ」
「・・・・・・・・・・・・・」

呆然と言葉をなくす昭和天皇。視線を外して沈黙を守る侍従長。どちらの反応にも驚きつつ、天皇の手をとって子供達の待つ大広間(?)へ急ぐ皇后。

現人神として崇められている間は、天皇の為にと国民が死に、人間になったと宣言したら、その宣言に立ち会った国民が死ぬ。神であっても、人であっても、彼を本当に愛するのは皇后と子供達だけなのか・・・・

一人の「人間」ヒロヒト天皇を描いたこの作品は、淡々と進んでいるけれど、様々な思いが見ているこちらの心にも去来する映画でした。
多少重いので、重い気分の時に見るのはお勧めしないかも・・・

侍従長を演じた佐野史郎さんのサイトで「太陽」に触れている記事を発見。
アレクサンドル・ソクーロフ監督『太陽』

公式サイト:太陽 The Sun



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